エネルギーから見たトランポリンの跳躍

2019年

1月

22日

スタンスと跳躍高さ

 日本体育協会の公認コーチ資格の講習で、「スタンスを広く捕るとたわみが少なくなり、高さが出なくなるという」という説明を受けました。一般的にそう考えられていますし、自分もかつてはそう持っていました。でもこの説明には疑問があります。

 確かにスタンスを広げるとたわみが少なくなります。これは正しいと思います(スタンスとたわみの関係についてはは改めて別の機会に説明しようと考えています)。たわみが少なければ、高さが出ないというのも実感覚的に正しいと思われます。それでもなぜ疑問に思ったのか?それはエネルギー保存の法則が成り立たないと考えられるからです。

 地面を基準にして高さHから物を落とすことを考えた場合、一番高いときに位置エネルギーは最大となり、一番沈み込んだ時点で位置エネルギーは最小となります。高さHから落とす時初速は0で、落ちていく過程で受領の影響を受けて速度が上がります。速度が上がることは運動エネルギーが大きくなるということです。しかしトランポリンに着床すると速度は徐々に低下していきます。速度が低下、つまり運動エネルギーが減少した分が、トランポリンに弾性エネルギーとしてたまることになります。

 エネルギー保存の法則というのは、外部からエネルギーが加わるあるいは逃げることがなければ、形を変えてもトータルのエネルギーは変わらないという法則です。

 トランポリンに物を落とした場合を考えると、エネルギー形態は最初に説明したように、位置エネルギー、運動エネルギー、弾性エネルギーの3つが考えられます。

 つまり、位置エネルギー+運動エネルギー+弾性エネルギー=一定なのです。

 高さHからものを落とすとき、トランポリンはたわんでいませんので、弾性エネルギーは0です。そして初速は0ですので運動エネルギーも0です。そして、一番沈み込んだ時位置エネルギーは最小となります。最下点では下降から上昇に切り替わる点ですので、速度は0となりますので、やはり運動エネルギーは0となります。

 

これを式で書くと

 位置エネルギー(最大)=位置エネルギー(最少)+弾性エネルギー

となります。

 

 さて、ここで、位置エネルギーが最小時点を考えてみましょう。スタンスを広げるとたわみが少なくなり、スタンスを狭くするとたわみが多くなる。その差をDとすると、スタンスを広げると位置エネルギーがDの分増えているのです。エネルギー的に考えるとたわみが少なくなって弾性エネルギーが少なくなった分位置エネルギーが増えて、それらが相殺されていると考えればエネルギーの保存が成り立ちます。

 言い換えればたわみが少ないということは高い位置から跳び始めるということです。トランポリンの反発力が小さくなっても高い位置から跳び始めるので跳躍高さは同じになるのではと考えられるのです。

 

 以上のようにスタンスを広げることによりたわみが少なくなっても、エネルギー保存の法則からいえば、同じ高さまで上がることになると思われます。つまり、たわみが少なくなるから跳躍高さが低くなるのではないということです。

 

2019年

1月

30日

スタンスを広げると安定する

 スタンスについて、講習における跳躍高さとの関係についてもう1つ気になることが同時期にありました。それは棟朝選手を取り上げたテレビ番組です。番組で棟朝選手がスタンスを広げることに取り組んでいると報じられていました。

 トランポリンでは、難度点、演技点の他に移動減点と跳躍時間が得点となります。跳躍時間が長いほど高いジャンプをしていますので、跳躍時間が長いほど高得点となります。だから如何に高いジャンプをするかが選手にとって重要な点になります。しかし棟朝選手が取り組んでいるスタンスを広げるということは、それに反することです。なぜそうするのかというとジャンプが安定させるためだそうです。

 今回はそれについて考えてみたいと思います。

 

 話は変わりますが、昔大地震があると研究者は墓地に赴きました。別に死者を弔うためではありません。墓石の転倒具合を調べるためです。

 昔の墓石は直方体を置いただけのものです。だから地震が起きるとその形状を調べることにより地震でどのくらいの力が発生したかが推定できるからです。

 長方形の重心の高さは墓石の高さの半分の位置にあります。同様に幅の半分の位置にあります。左から力が加わった時に右下の角を回転中心にして右回りの回転が起こり、墓石は転倒するのです。しかしちょっと押しただけでは倒れません。それは重力が回転を止める方向(左回り)に働くからです。墓石の高さをH、幅をB、重さをWとすると横に押す力による回転力(回転モーメントという)はP×H/2となります。重力による抵抗力はW×B/2です。この抵抗力をP×H/2が上回った時に墓石は転倒します。つまり倒れた墓石と倒れなかった墓石を調べれば、地震による水平力が推定できるのです。

 

 上記の式より幅が大きいほど墓石は倒れにくくなります。このように幅が広くなれば転倒しにくくなる、安定するのです。わざわざ数式を用いないでも、幅が広がれば安定するというのは、常識的に知っていると思いますが、トランポリンを力学的に理解していくためには、重心とモーメントという用語は必修ですので、もっとも単純な例を用いて説明しておきました。

 

2019年

2月

07日

アルティメイト(1)ブレやすい

 ユーロ社製のトランポリンが最近アルティメイトという商品に変更になりました。このアルティメットだと従来製よりジャンプが高くなるといわれています。しかしその一方でアルティメットはブレやすいとも言われています。

これはなぜでしょうか?アルティメットを従来品と比べると脚が補強されており、チェーンがワイイヤーロープに変更されるなどの変更が行われています。

 ユーロ社の製品を見ると当初ブレースは4本でしたが、その後、後付でさらに補助ブレースを4本取り付けるようになり、やがて最初からブレースが8本になるなど、補強がなされてきました。つまり徐々にブレースの本数が多くなり剛性が高くなってきているのです。その補強がアルティメットは大幅に改善されたようです。このような変更によりチェーンのがたつき、ブレースの接続部のがたつきがなくなったことによりジャンプが安定するはずですが、選手の感覚としてはブレやすく感じるのだそうです。これは単にトランポリンの違いによる調整ミスが原因でしょうか?自分はそうではないと考えています。

 さて構造を変更するとなぜこのようになるのでしょうか?以前日本製のトランポリンと比べてユーロはしなると書きましたが、強度を高めるとこのしなりが少なくなります。しなりが少なくなるというのは、剛性が高くなり、たわみが少なくなることを意味しています。たわみが少なくなるということは、ベッドに乗っている時間短くなったと言う事意味します。つまり今までより短時間で技をかけなければならないのです。そのため、今まででは対応できた調整がより短時間で行わなければならず、ブレやすくなったのだと思います。

 

2019年

2月

12日

アルティメイト(2)トランポリンは弾性体ではない

 さて、「スタンスと跳躍高さ」では、たわみが少なくなるとジャンプが低くなるということについて書きました。アルティメットは補強がなされフレームの変形が少なくなっていることからフレームの分たわみは少なくなっているはずでありますが、選手の感覚ではむしろ高くなっているのだそうです。これは大きく矛盾することです。

 トランポリンでの跳躍はトランポリンの弾性を利用して行うといわれていますが、実はトランポリンは完全な弾性体ではないのです。そのためアルティメイトの方が従来品よりも高さが出るのではないかと思います。

 ここで、「弾性」という言葉の意味を整理しておきましょう。「弾性」とは力を加えても力を取り除くと元に戻る性質を意味しています。トランポリンの場合着床すれば体重や落下の勢いでトランポリンが変形して、離床すれば荷重が取り除かれますので元に戻ります。

 でも試合などでときどき脚を引っ張ったりして調整しているのを見かけることがあるように、ずれたりすることがあります。つまり力を取り除いても完全には元に戻っていないのです。

 剛性を高めることにより、それらが少なくなり、より完全な弾性体に近づいたため、トランポリンの弾性力が有効利用できるようになり、高さが出るようになったのではないかと思います。

 

2019年

2月

20日

鎖と鉄球

 「スタンスと跳躍高さ」からたわみと跳躍に関する話題について書いていますが、そのきっかけは日本体育協会のコーチ講習でした。その講習の中で「スタンスを広くするとたわみが少なくなり跳躍高さが減る」という説明がありましたが、それに対して、その説明ではエネルギー保存の法則が成り立たないということから一連のブログを書いています。

 その講習では、比較として同じ重さの鉄球と鎖を落とした場合の説明がありました。同じ高さから落とした場合鉄球の方が弾むというような説明でした。これは正しいと思います。なぜなら鉄球はほぼ剛体(変形しない物体)と考えられますが、鎖の塊は着床すれば変形するからです。その変形も弾性的な変形ではなく、鎖が相互に擦れある変形です。つまりそこには摩擦が生じます。鎖が高く弾まないのはエネルギー的に考えると、鎖が動くことにより位置エネルギーの一部がまず鎖の運動エネルギーになり、さらに動くことにより摩擦が発生し、熱エネルギーに変換されるからだと考えられます(日常的に体験できますが、こすると熱を持ちます)。

 

エネルギー保存の法則からいうと

  位置エネルギー(最大)=位置エネルギー(最少)+トランポリンの弾性エネルギー+摩擦による熱エネルギー

 

となります。摩擦が生じることにより位置エネルギーの一部が熱エネルギーになって消費されるため(外部に逃げるため)、上下運動に使われるエネルギーが減るため結果として跳躍高さが小さくなると考えられるのです。