トランポリンに対する3大誤解

トランポリンは世間で誤解されていると思います。誤解はいっぱいありますが、その中でも次の3つは非常に大きな誤解なので、誤解を解いておきたいと思います。

 

1.トランポリンは危険

2.トランポリンは柔らかいので危なくない

3.トランポリンを使えば簡単に宙返りができる

 

1.トランポリンは危険

 トランポリンは本当に危険でしょうか?まずこの誤解を解いておきましょう。トランポリンの危険性が広くうたわれたのはアメリカです。大昔アメリカでトランポリンが大ブームとなりました。そのブームはアメリカのLIFE誌が196052日号で「カリフォルニアでトランポリンを楽しむ人々」といタイトルで取り上げていることからわかります。

 あまりブームになったので、指導者どころか、練習方法や正しい使用方法がわからないまま、トランポリンセンターがたくさんできました。その結果、重大事故が発生し、LIFE誌がトランポリンは危険として報道したそうです。それがきっかけでトランポリンは危険というのが定説となりました。

 では、本当にトランポリンは危険でしょうか?毎年スノーシーズンになるとスキーやスノーボードの死亡事故に関する記事が新聞に載ります。スキーやスノーボードは危険ではないでしょうか?毎年海水浴中に事故でなくなる人はいます。管理が行き届いているはずのプールでも時々死亡事故が発生しています。水泳は危険なスポーツではないのでしょうか? 水泳もスキーもスノーボードも他のスポーツもすべて危険はあるのです。

 スポーツにはどうしても避けられない危険性が潜んでいます。トランポリンも同様です。つまり、トランポリンが危険なのではなく、すべてのスポーツには危険が伴うのです。

 でもスポーツをしなければ不健康な状態に陥りやすいです。つまりスポーツをすることは健康上必要です。でもそれには危険性が伴います。

 柔道は学校の部活などで重大事故の発生が多いスポーツだそうですが、今中学校に武道が義務化され、柔道が多くの学校で行われます。柔道は他のスポーツより危険性が高いといわれているにもかかわらず、多くの学校で行われるのです。つまり危険性を超えても武道を行う必要があるということです。今問題視されているのは、柔道そのものの危険性ではなく、柔道を授業で行う際に必要な指導者がいないことです。

 トランポリンについては、日本トランポリン協会が普及指導員制度と段階練習法を策定して、安全にトランポリンができる環境を整えています。つまり中学校で行われる柔道よりも遙かにに安全な環境が整っています。

 アメリカで危険性がうたわれた当時と今は違います。指導者の指導のもとにトランポリンを行えば、他の多くのスポーツと同じ程度の危険性は残りますが、トランポリンが他のスポーツに比べて特に危険なスポーツではないといえます。

 

 

2.トランポリンは柔らかいので危なくない

 3つ挙げた誤解の中で最も間違っているのがこの誤解です。トランポリンは安全マットではありません。安全マットは変形して、衝撃力を吸収しますが、トランポリンは変形して弾性力として蓄えた力を跳ね返します。トランポリンはトランポリンの弾性を使って跳躍を補助する器具です。一見柔らかく見えますが、実は人間を何メートルも打ち上げるほどの強い反発力を持っているのです。

 ところで、トランポリンに落下するとトランポリンは伸びます。これが柔らかいと言われるゆえんです。しかしこの柔らかさがあるからこそトランポリンは危険です。柔らかいため、大きく変形します。そのため、変な姿勢で落下すると、大きく曲がってしまいます。つまり、身体の変形量が固い床より大きくなります。足首の捻挫はトランポリンで多くある事故ですが、固い床での捻挫よりもトランポリンでは、トランポリンが大きく変形するためそれに合わせて足首も大きく曲がります。そのため、同じような状況でもひねる量が大きくなりやすいのがトランポリンです。

 さらに、トランポリンが変形して身体が大きく変形したところに、伸びきったトランポリンが反発して今度は大きな力を加えます。そのため、変な姿勢で落ちれば、ひどい怪我になりやすいです。

 柔らかいからこそ、怪我がひどくなるそれがトランポリンです。この危険性を低くするために、トランポリンでは、まっすぐ落下する技術が非常に大事です。その技術を身につけるために、段階練習・反復練習が多く取り入れられているのがトランポリンの指導法です。

 

 


 

3.トランポリンを使えば簡単に宙返りができる

 この誤解も危険な誤解です。

 確かにトランポリンは高い跳躍すなわち長い滞空時間を得られますので、勢いをつけて回ってしまえば、回転することはできるかも知れません。しかし、前に述べたようにトランポリンは柔らかいため、非常に着地が難しいものでもあります。

 そして、トランポリンは垂直に落下しなければ、真上に跳ぶことはできません。斜めに入れば、斜めに放り投げられますのでトランポリンからの落下と言うこともあります。また、斜めに入れば、床のような固いところならば、踏ん張れて転倒を防ぐことができますが、トランポリンの場合、横に伸びて力が逃げてしまうため、踏ん張っても支えられず転倒する可能性がありますし、変に踏ん張れば今度は変に跳ね上げられて回転し、手をついたり、首から落ちれば、トランポリンがまた変形し、トランポリンの変形に伴い体も大きく変形させられ、その後ものすごい力で反発しますので、怪我の度合いが大きく、重大事故になりやすいです。

 特に宙返りは、回転を停止させまっすぐトランポリンに落下しなければ、重大事故になりやすいです。また、宙返りに入る瞬間もタイミングがずれれば、回転過多や不足により変な姿勢で落ちる可能性が非常に高くなります。つまりトランポリンで宙返りをするには、宙返りに入る技術が必要なだけではなく、まっすぐ跳ぶ技術、宙返りの回転を停止させまっすぐトランポリンに落ちる技術がなければ、安全に利用することができません。

 その技術を身につけるのはかなり時間を要します。

 というわけで、トランポリンを使えば簡単に宙返りができるというのは大きな間違いです。

 

 

4.まとめ

 以上述べてきたように、トランポリンを安全に使用するには、指導者の指導の元、段階練習・反復練習・連続練習を行う必要があります。

 段階練習をしていけば自ずと時間がかかりますし、反復練習するにも時間がかかります。トランポリン教室に入ればすぐ宙返りができるようになるというのも誤解です。

 

 

 

トランポリンに対するその他の誤解 

4.トランポリンダイエット効果の誤解

5.バッジテストはレクレーショントランポリンという誤解

6. トランポリン教室に入れば宙返りを教えてもらえるという誤解

 

 

5.トランポリンダイエット効果の誤解

 トランポリンをすると「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」といわれています。これはトランポリンの販売サイト、トランポリン教室、トランポリンダイエットに関するサイトでよく見かけるものです。この数値の根拠がどこからきているものかは知りませんが、どうもこれは眉唾の情報のようです(ハリウッドの女優の発言が元になっているみたいですが、その発言の元になる科学的根拠は見つかりませんでした)。

 なお、ここでいうトランポリンとは、「トランポリン広場 J-cube」で使用しているような大型のトランポリンではなく、家庭用のミニトランポリンを指しているものと思われます。

 

 本題に戻ります。厚生労働省から「健康づくりのための運動指針2006というものがでています。この中で、METS法という消費カロリー計算法が使われています。METS(メッツ)というのは、身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツになるそうです。消費カロリーはメッツと運動時間に比例します。つまりメッツが大きい方が、そして運動時間が長い方が消費カロリーは大きいということです。

 どのような運動をすると何メッツになるかも公表されており、トランポリンは3.5メッツだそうです。そしてジョギングは7.0メッツです。ちなみに水泳はクロールで8.0メッツ、平泳ぎで10.0メッツとなっています。


 メッツの数字からすると、トランポリンはジョギングの半分の身体活動強さ、つまり時間あたりのカロリー消費量が半分となります。

 7.0メッツのジョギングの速度は公表されていませんので、正確なところはわかりませんが、一般的なジョガーは1kmを6分~7分で走ります。5分で1km走るのはジョギングというよりもランニングに近くなります。

身体活動強さが半分のトランポリンを5分では、2分半のジョギングと同じ効果しか出ないことになります。ジョギングをキロ7分として計算すると、2分半で走れるのは約350mとなりますので、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」というのと大きな隔たりがあります。

 メッツの運動強度の計測がどのような状況で行われたのかまではわかりませんが、厚生労働省からでていますので、他の運動と同じような条件で測定した結果に基づくものと思われるメッツの値の信頼性は高いと思います。そして、メッツを元に考えると、5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」というのは過大評価であり、トランポリンの消費カロリーに対する誤解と考えられます。


 なお、分速98mのウォーキングは3.8メッツとなっています。つまり分速98mのウォーキングの方がトランポリンよりやや消費エネルギーが大きいということです。分速98mは時速に換算すると5.88キロです。ちなみに不動産屋さんが徒歩何分と表示する場合、分速80mで計算することになっています。また一般に徒歩は時速4キロ程度としていますので、3.8メッツのウォーキングは結構早歩きをした場合です。これから考えるとミニトランポリンの効果はジョギング程なく、ウォーキングと同程度ではないかと思われます。

 

※ METS法は日本の厚生労働省が採用している方法ですが、元はアメリカスポーツ医学会(ACSM)が発表したものです。

 

 

捕捉・追加情報

 7.0メッツのジョギングは一般的なジョギングとして書かれており、速度は公表されていません。しかし、よく調べたら時速8キロのジョギングのメッツが公表されていました。8.0メッツです。時速8キロのジョギングでは、1km走るのに7.5分かかります。上記で計算したキロ7分のより遅いジョギングが7.0メッツのジョギングです。これよりトランポリンの効果は350mよりも短いといえます。

 また、ミニトランポリン上のジョギングの値も公表されています。4.5メッツです。つまり同じ時間ジョギングする場合、ミニトランポリンで行うのは、実際走るよりも効果は少ないということです。

 

6.バッジテストはレクレーショントランポリンという誤解

 

 トランポリンにはトランポリン競技、レクリエーショントランポリン、エアリアルトレーニング(子供の素養作り)の3つがあります。エアリアルトレーニング(子供の素養作り)を実施するシステムとしてバッジテストという制度があり、エアリアルトレーニングはバッジテストという呼び方が流通しています。ここまではよいのですが、バッジテストをレクリエーショントランポリンの一部だと誤解している方がよくいます。

 バッジテストはレクリエーショントランポリンではありません。バッジテストはエアリアルトレーニング(子供の素養作り)です。

 この誤解は、一般の人がしている誤解ではなく、トランポリン関係者によくある誤解です。

 レクリエーショントランポリンは、「楽しく汗をかく」ものとされています。一方バッジテストは10歳以下の全児童に対して実施するべきトレーニングとされています。また、レクリエーショントランポリンにはトランポリン・シャトル競技というものがあります。これに対してエアリアルトレーニング(子供の素養作り)にはバッジテストというものがあります。またその一部にシャトルゲームというものがあります(シャトル競技とシャトルゲームの違いについては「どうして、トランポリンシャトル競技とシャトルゲームっていうのがあるの?」参照)。

レクリエーショントランポリン=シャトル競技ではなく、レクリエーショントランポリンの一部がシャトル競技を行っているだけです。これに対してエアリアルトレーニング≒バッジテストです。

レクリエーショントランポリンの対象はトランポリン愛好者であり、年齢を限定していません。一方エアリアルトレーニングは10歳以下の全児童を対象すなわち、年齢が限定されており、トランポリンの愛好者以外も対象としており、

そもそも対象が異なるものであり、バッジテスト(エアリアルトレーニング)がレクレーショントランポリンの一部であるはずはありません。

 

ではなぜこのような誤解が生まれたのでしょうか?

まず、レクレーションという言葉自体が誤解の元です。レクレーションというと「遊び」に近いイメージがあり、競技者からみれば遊びのようなエアリアルトレーニングがレクレーションと誤解されたのです。また日本トランポリン協会の組織上「競技」と「普及」と2つに分類し、「競技」はトランポリン競技、「普及」はレクレーショントランポリンとエアリアルトレーニングを担当するとなっていましたので、この2つは同じようなものという誤解の原因にもなっていました。

 

まだ原因はあります。トランポリンエアリアルトレーニングの指導に当たってはほめ育てをモットーとしています。つまり楽しく運動をさせることを心がけています。これが「楽しく汗をかく」トランポリンと定義されるレクレーショントランポリンと混同される要因の1つです。レクレーショントランポリンはトランポリン自体を「楽しい」と感じるものです。それに対して、エアリアルトレーニングでは指導者が「楽しくさせている」もので、結果として生徒はトランポリンを「楽しい」と感じているのです。結果が同じことになるので、誤解が生まれてしまっています。

 

もう1つ誤解の原因はあります。これはシステム上の欠陥で、おそらく最大の誤解です。本来レクレーショントランポリンはトランポリンというスポーツすなわちトランポリン競技を行うものです。従来トランポリン競技をしたと思ってトランポリン教室に入っても、その多くはコーチがいるトランポリンクラブではなく、普及指導員が指導するトランポリン教室だったのです。そして、普及指導員の指導範囲に競技指導は含まれないという考え方が流通していましたので、普及指導員は通常子供に対してはバッジテストの指導をしました。本来トランポリン競技向けの指導を施さなければ成らない生徒に対してもエアリアルトレーニングを実施してしまったのです。その結果本来トランポリン競技者になるべき児童が、トランポリン競技指導を受けられず、中途半端なトランポリン愛好者となってしまいました。このような児童を子供のレクレーショントランポリンとしてあつかったため、バッジテストはレクリエーショントランポリンという誤解を生んだのです。

 

そして以上の誤解はさらなる誤解を生んでいます。それは社会人のレクレーショントランポリンに対する誤解です。バッジテストではトランポリン競技における美しさを求める必要はないとされています。そのため競技者育成に欠かせないつま先を伸ばすなどの指導を行わないだけでなく、安全上問題ない範囲ならトラベルをしてもかまわないようになっています(最近取り入れられたボールトレーニングではわざとトラベルすることも指導範囲に入っています)。

一方社会人のレクトラは本来、トランポリンというスポーツすなわちトランポリン競技をレクレーションとして楽しむものですので、そこには競技選手同様美しさも求めるようにする必要があります。しかしバッジテストとレクレーショントランポリンが混同されたため、レクトラも美しさを求める必要はないという誤解が生まれました。

 

現在は普及指導員の指導範囲に競技指導も含まれることが明記され、競技検定というシステムが整備され、それ向けの指導方法も作られました。その結果トランポリン愛好者には競技指導ができる体制が整えられ、以前のようにトランポリン愛好児童に対してエアリアルトレーニングを実施しない環境ができています。

また、組織上、「バッジ」部門の独立が提案され、「競技」・「普及」という分類から、「競技普及」(トランポリン競技とレクレーショントランポリン)・「運動普及」(エアリアルトレーニングと障害者などへのトランポリン利用)へ分類の再編成も提案されています。

つまり、バッジテスト=レクリエーショントランポリンという誤解を生み出す環境はなくなったのです。今こそこの誤解を解く必要があります。


6.トランポリン教室に入れば宙返りを教えてもらえるという誤解

 トランポリンといえば宙返りというイメージは広く行き渡っています。しかしトランポリンという器具は宙返りをするためだけのものではありません。トランポリンは跳躍を補助する器具にすぎません。トランポリンを使えば高い跳躍ができるつまり長い滞空時間を得られるので、その間に宙返りができるというだけにすぎないのです。宙返りはトランポリンという器具の利用法の一部にすぎないのです。

 トランポリン競技では難しい技を上手にすることで競うスポーツで、基本的に宙返りをして争うスポーツです。日本体操協会では、この競技指導を行う資格としてコーチ制度を設けています。現在コーチのいない団体に属していないと、日本体操協会の主催する全国規模の大会に出場することはできません。

 一方日本体操協会は、宙返り以外のトランポリンの利用法、すなわちレクレーショントランポリンや子どもの素養作り、障害のある方のリハビリなどを通じてトランポリン運動を広めることも推奨しています。長い滞空時間を生かして日常生活では体験できない空中で運動することによることによる刺激は多くの効果があります。

 競技選手の育成をしていると強い選手の育成が中心となり限られた数しか指導できません。そこで、宙返りや背落ちのような頭部からの落下の危険性のある、つまり重大事故の可能性の高い種目以外の安全性の高い基礎種目を指導できる普及指導員という資格を整備しています。

普及指導員の指導範囲には宙返りは含まれていない、すなわち宙返りを指導してはいけない資格です。そして多くのトランポリン教室で指導に当たっているのは、この普及指導員です。つまり、トランポリン教室の多くは宙返りを指導しないのです。だからトランポリン教室に行けば宙返りなどアクロバティックなことを教えてもらえる問いのは、大きな誤解です。