スタンスと跳躍高さ

 日本体育協会の公認コーチ資格の講習で、「スタンスを広く捕るとたわみが少なくなり、高さが出なくなるという」という説明を受けました。一般的にそう考えられていますし、自分もかつてはそう持っていました。でもこの説明には疑問があります。

 確かにスタンスを広げるとたわみが少なくなります。これは正しいと思います(スタンスとたわみの関係についてはは改めて別の機会に説明しようと考えています)。たわみが少なければ、高さが出ないというのも実感覚的に正しいと思われます。それでもなぜ疑問に思ったのか?それはエネルギー保存の法則が成り立たないと考えられるからです。

 地面を基準にして高さHから物を落とすことを考えた場合、一番高いときに位置エネルギーは最大となり、一番沈み込んだ時点で位置エネルギーは最小となります。高さHから落とす時初速は0で、落ちていく過程で受領の影響を受けて速度が上がります。速度が上がることは運動エネルギーが大きくなるということです。しかしトランポリンに着床すると速度は徐々に低下していきます。速度が低下、つまり運動エネルギーが減少した分が、トランポリンに弾性エネルギーとしてたまることになります。

 エネルギー保存の法則というのは、外部からエネルギーが加わるあるいは逃げることがなければ、形を変えてもトータルのエネルギーは変わらないという法則です。

 トランポリンに物を落とした場合を考えると、エネルギー形態は最初に説明したように、位置エネルギー、運動エネルギー、弾性エネルギーの3つが考えられます。

 つまり、位置エネルギー+運動エネルギー+弾性エネルギー=一定なのです。

 高さHからものを落とすとき、トランポリンはたわんでいませんので、弾性エネルギーは0です。そして初速は0ですので運動エネルギーも0です。そして、一番沈み込んだ時位置エネルギーは最小となります。最下点では下降から上昇に切り替わる点ですので、速度は0となりますので、やはり運動エネルギーは0となります。

 

これを式で書くと

 位置エネルギー(最大)=位置エネルギー(最少)+弾性エネルギー

となります。

 

 さて、ここで、位置エネルギーが最小時点を考えてみましょう。スタンスを広げるとたわみが少なくなり、スタンスを狭くするとたわみが多くなる。その差をDとすると、スタンスを広げると位置エネルギーがDの分増えているのです。エネルギー的に考えるとたわみが少なくなって弾性エネルギーが少なくなった分位置エネルギーが増えて、それらが相殺されていると考えればエネルギーの保存が成り立ちます。

 言い換えればたわみが少ないということは高い位置から跳び始めるということです。トランポリンの反発力が小さくなっても高い位置から跳び始めるので跳躍高さは同じになるのではと考えられるのです。

 

 以上のようにスタンスを広げることによりたわみが少なくなっても、エネルギー保存の法則からいえば、同じ高さまで上がることになると思われます。つまり、たわみが少なくなるから跳躍高さが低くなるのではないということです。