スタンスを広げると安定する

 スタンスについて、講習における跳躍高さとの関係についてもう1つ気になることが同時期にありました。それは棟朝選手を取り上げたテレビ番組です。番組で棟朝選手がスタンスを広げることに取り組んでいると報じられていました。

 トランポリンでは、難度点、演技点の他に移動減点と跳躍時間が得点となります。跳躍時間が長いほど高いジャンプをしていますので、跳躍時間が長いほど高得点となります。だから如何に高いジャンプをするかが選手にとって重要な点になります。しかし棟朝選手が取り組んでいるスタンスを広げるということは、それに反することです。なぜそうするのかというとジャンプが安定させるためだそうです。

 今回はそれについて考えてみたいと思います。

 

 話は変わりますが、昔大地震があると研究者は墓地に赴きました。別に死者を弔うためではありません。墓石の転倒具合を調べるためです。

 昔の墓石は直方体を置いただけのものです。だから地震が起きるとその形状を調べることにより地震でどのくらいの力が発生したかが推定できるからです。

 長方形の重心の高さは墓石の高さの半分の位置にあります。同様に幅の半分の位置にあります。左から力が加わった時に右下の角を回転中心にして右回りの回転が起こり、墓石は転倒するのです。しかしちょっと押しただけでは倒れません。それは重力が回転を止める方向(左回り)に働くからです。墓石の高さをH、幅をB、重さをWとすると横に押す力による回転力(回転モーメントという)はP×H/2となります。重力による抵抗力はW×B/2です。この抵抗力をP×H/2が上回った時に墓石は転倒します。つまり倒れた墓石と倒れなかった墓石を調べれば、地震による水平力が推定できるのです。

 

 上記の式より幅が大きいほど墓石は倒れにくくなります。このように幅が広くなれば転倒しにくくなる、安定するのです。わざわざ数式を用いないでも、幅が広がれば安定するというのは、常識的に知っていると思いますが、トランポリンを力学的に理解していくためには、重心とモーメントという用語は必修ですので、もっとも単純な例を用いて説明しておきました。