理屈でわかる段階練習表(はじめに)

2014年

5月

02日

余談3 法的な面からみた普及指導員(2)

今は法人としてはなくなった日本トランポリン協会ですが、専門家団体が作った段階練習法と資格制度は社会的な信頼性があり、法律上ある程度有効に働きます。法律上有効に働くとは、日本トランポリン協会の指導法に即して行った指導で発生した事故については、もし指導者に過失があるとすれば、それは日本トランポリン協会の定めた練習法に問題があるということになります。専門家の組織であった日本トランポリン協会がつくった練習法に瑕疵(欠陥)があるというのを証明することは、非常に困難ですので、普及指導員が段階指導法に即して指導していたにもかかわらず発生した事故は、裁判になった場合でも、法的な責任を問われることはまずないと思われます。あるとすれば、日本トランポリン協会を吸収した日本体操協会がもっと安全な指導法を作った場合などです。

なお、この保証は日本トランポリン協会が作った指導法に即していることが前提です。資格を持っていることは段階練習法を実践していることの証明にはなりません。実際に段階練習法に即した指導を行っていることが条件です。日本トランポリン協会の指導法と異なった指導を行った場合はその保証はなくなります。保証がないというのは、日本トランポリン協会の指導法と異なることをしていたにもかかわらず、指導者に過失がないことを自分で証明する必要があるのです。これはかなり困難なことです。逆をいえば過失がないことを自分で証明できるのであれば、日本トランポリン協会以外の指導法を行ってもよいです。だから、他のスポーツ種目の方が、独自の方法で指導すること自体は法律違反でも何でもありません。ただし、万が一事故が起きた場合、過失責任がないことを証明できるだけの根拠があれば、です。指導者となるには、法律上の責任問題は考慮しておく必要があります。

最後に、日本トランポリン協会は社会人向けと子供向けと競技者向けの3つの指導法を作っています。この中でもっと広く行われているのは子供向けの指導方法です(バッジテスト段階練習法)。社会人に競技者向けの指導をすることはまずないと思いますが、子供向けの練習法を使うことはよく見られます。しかしこれは、日本トランポリン協会の指導方法からはずれた指導となりますので、成人を指導している人は要注意です。

2014年

4月

25日

余談2 法的な面からみた普及指導員(1)

 生徒が怪我をした場合、指導者に過失があれば、過失責任が発生します。指導者に過失がなければ、指導者の責任を問われることはありません。

 一般に危険なことに対して法律は制限をしています。たとえば、手術を行うには医師免許が必要となっています。だれでも他人の体を切ってよいとはしていないのです。医師免許がない人が人の体を切ってしまえばそれは傷害罪となります。何もこれは特殊なことに限りません。身近な例としては自動車を運転すると交通事故という危険があるので運転免許という制度が整備されています。運転免許を持たない人が自動車を操作することは禁止されています。

 同様にスポーツをするには必ず何らかの危険性が伴います。そのために指導者は安全に配慮する義務があります。これについては特別な法律はありませんが、もし生徒が怪我をしたとき指導者に責任があったかどうかは非常に大きな問題となります。

 トランポリンでは頭部からの落下やトランポリンからの転落により頸椎あるいは脊椎損傷という非常に大きな事故が発生する可能性があるスポーツです。そこで、安全に行えるように指導者は配慮する必要があります。

 そこで日本トランポリン協会は段階練習方法を整備し、さらに資格制度を設けています。この資格は法律上のものではないので、拘束力はありません。だから資格を持っていない人が指導を行うこと自体は法律違反ではありません。しかし事故にあったときに指導者に過失がなかったどうかそれは問題となります。普及指導員というのは日本トランポリン協会が定めた指導法に即して指導を行う能力があることを日本トランポリン協会が保証する資格といえます。

2014年

4月

09日

危機感の原則2

 危機感の原則の3つの恐怖心と種目の難しさにもとづいて、段階練習は構成されています。では3つの原則の優劣はどうなっているでしょうか?

 実は原則2は段階練習帳の構成にはあまり反映されていません。原則2は段階練習の構成の中よりも各段階のより細かい部分に関わるもので、実際指導する際には原則2を最優先して指導するとよいと著者は考えています。

 残る原則1と原則3ではどちらが優先されているのでしょうか?これは原則3の方が優先されているようです。というのは、原則3に最も関わる背落ち系の技は一部の例外を除いて、普及指導員の指導範囲である段階練習の30番までに含まれていないことからわかります。

 まとめますと、優先順位の高い方から原則2-原則3-原則1になると考えられます。そして、場合によっては種目の難易度よりも、危機感の原則を優先して段階練習は構成されています。

 

 

 1.垂直跳び(ストレートジャンプ)-チェック(停止)

 2.1/2捻り跳び(ハーフピルエット)

 3.腰落ち(シートドロップ)-立つ(スタンド)

 4.膝落ち(ニードロップ)-立つ

 5.腰落ち-膝落ち-1/2捻り腰落ち-立つ

 6.腰落ち-1/2捻り膝落ち-腰落ち-立つ

 7.抱え跳び(タック・バウンス)-ジャンプ

 8.よつんばい落ち-よつんばい落ち-立つ

 9.よつんばい落ち-1/2捻り腰落ち-立つ

10.開脚跳び(ストラドル・パイク・バウンス)-ジャンプ

11.よつんばい落ち-腹落ち-膝落ち-立つ

12.腰落ち-よつんばい落ち-よつんばい落ち-立つ

13.よつんばい落ち-腰落ち-立つ

14.腰落ち-1/2捻りよつんばい落ち-立つ

15. 腰落ち-1/2捻り腹落ち-立つ

16.閉脚跳び(パイク・バウンス)-ジャンプ

17.1/2捻り腰落ち(ハーフシート)-立つ

18.1回捻り跳び(ピルエット)-ジャンプ

19.腰落ち-腹落ち-立つ

20.膝落ち-腹落ち-立つ

21.腹落ち(フロントドロップ)-立つ

22.腹落ち-腰落ち-立つ

23.腰落ち-1/2捻り立つ(ハーフスタンド)

24.腰落ち-1/2捻り腰落ち-立つ(スイブル・ヒップス)

25.1/2捻り腹落ち(ハーフフロント)-立つ

26.腹落ち-1/2横まわり腹落ち(ターンテーブル)-立つ

27.膝落ち-倒立-膝落ち-倒立(ドンキーキック)

28.腰落ち-1回捻り腰落ち(ローラー)-立つ

29.腰落ち-水平背落ち

30.1回捻り腰落ち(フルシート)-立つ

 

※  実態としてドロップ(○○落ち)の状態から立位状態になるものについては段階練習帳では「ジャン プ」と書かれているものは「立つ」として扱いました。またレクレーショントランポリン(シャトル競 技含む)やバッジテストでは日本語の名称が正式には使われますが、トランポリン競技では異なる呼び 名(外来語)で呼ばれるのが一般的なものについては、併記してあります。

※  段階練習23については段階練習帳では「1/2ひねって立つ」という名称になっていますが、トランポリンシャトル競技では「1/2捻り立つ」になっています。シャトル競技での混乱を避けるため、本ブログではシャトルで使用する名称を用い「1/2捻り立つ」と表記しています。

2014年

3月

14日

危機感の原則

 人は危険なことを自然と避ける危機感を身につけています。危機感の原則はその危機感を考慮して作られています。危機感つまり恐怖心は以下のようなものがあります。

 1)人は高いところから落ちるのが怖い

 2)人は登るより下る方が怖い

 3)人はオープンサイド(見える方向)への移動よりブラインドサイド(見えない方向、背後)の移動が怖い

つまり恐怖心は

 高い>低い、下る>登る、ブラインドサイド>オープンサイドとなっています。

 恐怖心が強いものは危険であるまたは恐怖心によりトライできないものですので、以上のことを前提として、段階練習の順番は作られています。つまりこの原則を理解しておくとどの段階でどの技を練習することになっているのかを理解しやすくなります。

 なお、高いところから落ちる方が低いところから落ちるより危険度が高いことからわかるように、恐怖心が大きいものと危険度には相関性があります。また、高いところから移動するという点においては、上下移動だけではなく回転移動にも当てはまります。上半身(頭部)が回転運動をすると、落下高さは大きくなりますので、上半身の回転運動がない方が、下半身のみで行う運動より安全性が高く、恐怖心が少なくなります。

 最後に、恐怖心が大きいと人はうまく動くことができなくなります。つまり恐怖心故に性格にできず中途半端な状態で落下して怪我をする危険性があります。そこで、できるだけ恐怖心を持たないように段階的に練習することが大事です。

2014年

3月

05日

種目系列

 公認普及指導員資格認定講習会教本44ページに種目系統が系列表として載っています。その中では、「垂直跳」、「腰落ち(スイブル系、1回捻り腰落ち系)」、「腹落ち」、「背落ち(クレイドル系、1回捻り背落ち系)」、「回転系(前方系、後方系)」と分類されています。

 この系列を理解しておくと、どの種目がどんな目的で行われているかが理解できます。このブログではこれを種目系列と呼ぶことにします。

 ところで、以前筆者は「バッジテスト解体新書」というブログの中で、3次元軸から軸に平行する移動運動と回転運動に分類して、各種目を論じてきました。この考えを発展させて、系列を「ひねり系」、「前方回転系」、「後方回転系」、「共通系(無回転系)」、「横回り系、その他」の5つに分類してみたいと考えています。「ひねり系」は体軸回りの回転、「前方回転系」は左右軸回りで頭部が前方、下半身が後方に回転する方向の回転、「後方回転系」はその逆で、左右軸回りで頭部が後方、下半身が前方に回転する方向の回転、「共通系(無回転系)」は回転運動を伴わない垂直運動「横回り系」は前後軸回りの回転です。

なおこの分類の場合、軸の組み合わせ運動が多くでます。2つ以上の系列の組み合わせとなるケースがほとんどです。こちらの分類を「軸系列」と呼ぶことにします。

 各種目の解説をする際に、この2種類の系列を用いて説明したいと考えていますので、この分類は記憶しておいてください。特に後者はトランポリンの指導法上一般的な考え方ではなく、このブログ独自のもので、「軸系列」を中心に解説することが多くなっています。

2014年

2月

26日

段階練習の原則2

 トランポリンの種目を練習するにあたって、知っておかなければならないものに、段階練習の構成です。

 段階練習の構成には2種類のものがあります。1つは種目自体の内容・系統です。もう1つは、なぜそういう順番で練習するように構成されているのかの原則です。本ブログでは、前者を種目系列、後者を安全の原則と呼ぶことにします。なぜ後者を安全の原則というかというと、段階練習の構成の原則はトランポリンを安全に練習できることを最優先として考えて構成されているからです。つまり単純に簡単な種目から難しい種目を並べたのではなく、安全の原則に従って構成されているからです。

 次回は種目系列の説明、その後に安全の原則について説明する予定です。

2014年

2月

19日

練習原則

 練習の原則には、段階練習、反復練習、連続練習の3つがあります。段階練習というのは簡単な技・安全な技から高度な技へと段階を踏んで練習することです。

 反復練習というのは、できたら次に進むではなく、反復練習を積んで、完成度を高めてから次に進むというものです。

 連続練習というのは、種目を連続で行うことです。単体ではできても連続ではできないということは、まだ種目が完全にできていないことを意味します。つまり、種目の完成度をチェックできます。

 以上の3つの練習を通じて、トランポリンを練習します。

 バッジテスト段階練習には段階練習と各段階で連続練習を行うようになっています。しかし社会人向けの段階練習表(普及版)は連続練習は少なくなっていますので、指導する際には適宜連続練習を取り入れることも大事です。

指導をする際に注意しなければならないのは、反復練習です。反復練習を多くすれば完成度が高まります。基本的なものが無意識にできる(運動の自動化が起こる)まで練習できれば、完成です。

ただし、無意識に動くまで(運動の自動化が起こるまで)反復練習をさせてしまっては、エアリアルトレーニングとしては失敗ですので、バッジテストを受けるトランポリン・エアリアルトレーニングの生徒に対しては、自動化が起こるまで反復練習させてはいけません。

つまり、トランポリンをする目的によって反復練習の量は変えなければなりません。どの程度反復練習をさせればよいかは、指導者個人が判断しなければならず、その判断が重要となっています。

2014年

2月

12日

余談1 レクレーショントランポリンとは

 このブログは段階練習帳(普及版)にある30番までの種目について解説するブログです。段階練習帳(普及版)は社会人がトランポリンというスポーツ(トランポリン競技)を趣味として楽しめるように練習するために作られたものです。楽しく汗をかいて、趣味として楽しむことからレクレーショントランポリン(レクトラ)と呼ばれています。

段階練習帳(普及版)はトランポリン競技経験のない社会人が宙返りまでできるようにしたものですので、レクレーショントランポリンには宙返り種目が含まれます。ただし、宙返り種目は危険度が高いため、比較的安全に行える30番までは普及指導員の指導範囲、高度で危険性の高い31番以降はコーチ資格所有者の指導範囲として、指導範囲に対して区分がされています。

普及指導員が指導できる範囲(30番まで)の種目を用いてもトランポリン競技を楽しめるように開発されたのがトランポリンシャトル競技です。だからレクトラ=シャトル競技というのは大きな誤解です。

なお、トランポリンシャトル競技も時間切れ引き分けの際には演技の出来映えで優劣をつけることになっていますし、31番以降の種目を行うには、トランポリン競技で求められる「締め」や跳躍高さもなども必要ですので、レクレーショントランポリンの指導にあたっては「高さ」と「美しさ」を求めるように指導することも大事です。つまり、レクレーショントランポリンの指導に当たっては、競技選手育成と同じように種目の完成度を求める指導も必要です。この点、見た目の美しさを求めないトランポリンエアリアルトレーニングいわゆるバッジテストの指導と大きく異なる点です。このあたりをレクトラとバッジテストを混同している方がよく見られますので、余談ですが指摘させていただきました。

なお、このブログは普及指導員のために書いておりますので、危険度の高くコーチの指導範囲となる31番以降については解説する予定はありません。

2014年

2月

05日

はじめに

 普及指導員が行う指導には社会人向けの段階練習帳に則ったレクレーショントランポリンの指導(対象は運動経験のない成人女性)、バッジテスト練習帳に則ったエアリアルトレーニング(子どもの素養づくりともいい、対象は10歳以下の児童)、宙返りを含まない競技選手育成(対象は競技選手に適用した運動能力を持つもの)の3つがあります。

 この中でもっと最初に整備された社会人向けの段階練習帳のうち、指導できる範囲は段階練習帳の30番までの技となっています。  

 段階練習帳の30番までには宙返り(頭部が重心を通過する回転運動)は含まれません。つまり普及指導員は宙返り種目を指導することはできないのです。そして一部の例外がありますが、上半身の縦回転(前方回転及び後方回転)については1/4回転までしか指導できず、また背落ちは指導範囲に含まれていません。

 普及指導員は段階練習表に沿った指導をすることが必要ですが、杓子定規に順番通りにすればよいというものではなく、必要に応じて適宜順番を変えてもよいことになっていますが、中には順番を変えてはいけないものもあります。

 普及指導員となるには、この段階練習帳の順番を覚えるだけではなく、なぜそういう順番になっているかを理解し、どのような練習を指導すればよいかを理解していなければなりません。

このブログでは、普及指導員の教本「種目系列」に加えて、「軸系列」という概念と人間の「心理」を考慮して、理論的に段階練習表を考察していこうと思います。